本年度は固体高分解能NMR分光法の手法を用いて化学シフト相互作用や磁気双極子相互作用などの異方的磁気相互作用を利用して膜結合生体分子の立体構造や配向を精密に決定するための方法論の開発を行った。さらにこの方法論を利用して毒物や膜タンパク質など膜結合生体分子の構造と機能の相関、ならびに生体膜との相互作用を分子レベルで明らかにする研究を行った。 ハチ毒の主成分であるメリチンを脂質二重膜に再構成したところ脂質膜は液晶-ゲル相転移点(Tc)以上で膜融合活性を示した。しかし、Tc付近では膜面が非常に乱れた状態になり、さらに温度をTc以下に下げていくと、膜はメリチンによって完全に分断された。この状態から温度を上げていくと、再び膜融合を始めるが小胞は長楕円型になり長軸を磁場に平行に向けて配向することを見出した。この自発的磁場配向小胞をMOVSと命名した。^<13>C NMRスペクトルからMOVSに結合したメリチンも磁場配向していることが明らかになったので、カルボニル炭素の異方的化学シフト相互作用を基にして、膜に対するメリチンの構造や配向の精密情報を得る解析方法を確立した。この結果、膜結合メリチンは膜厚に依存することなく折れ曲がったヘリックス構造であることが判明した。 ダイノルフィンはオピオイドk-受容体と結合して鎮痛作用を示すことが知られている。このダイノルフィンを再構成した脂質二重膜もMOVSを形成することが判明した。ダイノルフィンの膜結合構造について、等方^<13>C化学シフト値を解析したところ、N-末端がヘリックスを形成し中央からC-末端は特定の構造をとらないことが判明した。MOVSによる磁場配向系を用いて、N-末端ヘリックスは膜法線20度傾いて膜に挿入していることが分かった。
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