動物細胞のNa^+/H^+交換輸送体NHE1はあらゆる組織に普遍的に存在し、Na^+濃度勾配をエネルギーとしてH^+を排出する二次性能動輸送体であり、増殖因子や浸透圧変化など多様な刺激に応答して活性調節を受ける。NHE1欠損マウスは成長速度が遅いだけでなく、運動失調やてんかん発作などにより約90%が致死で、NHE1が高次の生理機能に重要な役割を果たしていることを示唆している。このNHE1の活性化にはカルシニューリンB類似蛋白質CHPがNHE1のC末端細胞質ドメインに結合することが必須である。CHPには2つのアイソフォームCHP1/2が知られており、CHP1が普遍的に発現しているのに対して、CHP2はがん細胞特異的に発現している。またCHP2とNHE1との結合はCHP1と比べて約5倍強い。そこで本研究では、ヒト由来CHP1とNHE1のC末端細胞質ドメインとの複合体の立体構造をNMRによって決定することで、NHE1活性化機構の解明を目指す。また、CHP2/NHE1複合体についても解析をすすめ、CHP1とCHP2の相互作用様式の違いを明らかにする。 NHE1-CHP1複合体は分子量27kDaであり、溶液NMRを用いて高分解能で立体構造を決定することは非常に難しい。世界的にも分子量25kDa以上のタンパク質の立体構造決定に成功した例は極めて少なく、PDBに登録されているNMR構造の1%にも満たない。本研究では60%^2H/u-^<13>C/u-<15>N、u-^<13>C/u-^<15>N、15%^<13>C標識サンプルと、化学シフトデータベースに基づくSparkyのピーク同定機能やCYANA ver 2による半自動NOE帰属ツールなどを用い、20構造のRMSDが主鎖で0.56Å、水素を除く全原子で1.2Åと非常に高分解能な最終構造を得ることに成功した。
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