チトクロム酸化酵素は呼吸鎖の末端に位置し、チトクロムcから電子を受け取り、分子状酵素を水にまで還元すると共に、プロトンを膜の内側から外側へ能動輸送する。バクテリアから高等生物まで酸素を利用するあらゆる生物の生体エネルギー変換に最も重要な役割を果たす本酵素の反応機構を理解するためには、立体構造に関する情報が不可欠である。我々は、界面活性剤としてデシルマルトシド(C10M)を用いて精製、結晶化を行ない、酸化型で1.8ÅのX線結晶構造を明らかにした。 ウシ酵素では進化の過程で付加されたサブユニットを介してダイマーを形成したことからウシ酵素の機能単位は2量体であると考えられた。しかし、最近、新規合成した界面活性剤、3-オキサトリデシルマンノシド(30M)を用いた標品から得られた結晶中において酵素は単量体で存在していた。そこで、30Mを用いた標品から結晶を再現性よく得るために酵素の精製法、結晶化条件の詳細な検討を行なうとともに、結晶を取り扱う緩衝液の種類や凍結防止剤の検討を行なった。50mM Mes-Tris pH6.2、4%PEG4K、35%プロピレングリコールの条件で液体窒素気流下で結晶を凍結し、回折データの収集を行なった。この様にすると最高で、1.59Å分解能の反射が得られ、1つの結晶から最高で1.74Å分解能のデータ収集ができた。 この結晶は、同じ精製バッチ内で得られた結晶間では、非常によい同型性を示したので4-7個のデータをマージングできたため、1.65Å分解能での解析が可能となった。この様に30Mから得られた結晶からは単量体の構造解析が可能なだけでなく、C10Mに比べて高い分解能での解析が可能になった。 30M及びC10Mを用いた結晶標品の含有するリン量の比較を行なったところ差異が認められなかったことから、標品間で結合するリン脂質量の差はないと考えられた。
|