研究概要 |
細胞内情報伝達系蛋白質ホスホリパーゼC-δ1(PLC-δ1)のPHドメインについて、脂質膜結合状態の膜脂質組成依存性を、ベシクル共沈法による膜結合活性測定および固体NMR測定に立体構造解析により解析した。脂質膜中のホスファチジルイノシトール(4,5)2リン酸(PIP2)の特異的認識によるPLC-δ1 PHドメインの膜結合の強さは、膜中のホスファチジルセリン(PS)濃度増加に伴って減少することが見出された。この時、脂質膜上におけるPHドメインの構造は、両親媒性α-ヘリックスを介する膜との疎水性相互作用の減少を反映した変化を生じていることから、脂質膜上での立体構造変化と脂質膜結合活性が直接に関係しており、立体構造変化が膜結合能の調節に関与していることが示唆された。このようなPHドメインの機能である脂質膜結合能の立体構造変化を介した膜脂質組成依存性は、細胞膜と細胞内小器官の膜の間での脂質組成変化、アポトーシス等の細胞機能に伴う膜脂質組成の変化、生体膜中の脂質マイクロドメインの形成による局所的な脂質組成の変化等が、情報伝達系に含まれるPLC-δ1等の膜結合性蛋白質の動的立体構造変化を誘起し、それを介して細胞内で時間的、空間的に限定された蛋白質機能の制御に関わっている可能性を示している。また、PLC-δ1、EF-handドメインおよびPHドメインを欠くPLC-δ1 ΔPHフラグメントに大量調製条件と安定同位体標識条件の決定を行った。各試料に関して、ベシクル共沈実験による膜結合状態の解析が可能であり、また、前二者については十分な感度の固体NMRスペクトルが観測できることを見出した。これらの技術を利用し、PHドメインに関して観測された脂質膜組成に依存する膜結合状態変化が、他のドメインおよびPLC-δ1全体の機能にどのように影響しうるのかについて解析を進めている。
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