我々は、GPCR系の制御因子としてGαGAPの作用をもつRGSタンパクファミリーに注目して、特にRGS 8とRGS 8S(N端部9残基のみが異なる)をクローニングして解析を行ってきた。そして、RGS 8が小脳プルキンエ細胞に特異的に高発現していること、Gαiファミリーに選択的に結合すること、さらに細胞内分布については、RGS 8が、プルキンエ細胞で何らかの機構によって特定の細胞膜に存在することなどが判明した。また、Gq受容体シグナルの制御能を解析すると、RGS 8が、Gαqとは結合性が低いにもかかわらず、各ムスカリンGq受容体に対して受容体選択的なGq抑制能を示し、M1系は抑制するが、M3系の抑制は弱いこと、さらにRGS8SはいずれのGq系にも制御能が弱いことなどが判明した。そこで、プルキンエ細胞では、RGS 8は特定の細胞膜で受容体選択的なGq制御を行うために、その特異的N端を介してG蛋白質以外の分子と相互作用してRGS 8反応複合体を形成し、またRGS 8SはRGS 8S反応複合体を形成して機能しているものと考えられた。これらの反応複合体の実体を明らかにすることが、本研究の目標である。本年度は、RGS 8が細胞膜上でGタンパク質以外のどのようなGqシグナル関連情報因子と相互作用しているのかについて、以下の研究成果を得た。(1)カルモジュリン(CaM)について共枕実験を行って解析した結果、Ca^<2+>依存的にRGS8がCaMに結合することが判明し、さらにRGS 8SはCaM結合性が低いことが明らかになった。このことから、RGS 8の特異的なN端配列にCa^<2+>-CaMが結合する機能があることが示された。(2)受容体との直接の反応性を組換え蛋白質を用いた共枕実験で解析した。すると、RGS 8がGq共役のM1とM3のムスカリン受容体の第三細胞内ループ(i3)に結合することが判明し、特にM1へは高い結合性が検出された。一方、Gi共役のM2受容体のi3へは、RGs8は全く結合しないことが明らかになった。また、RGS 8Sについては、いずれの受容体への結合性もRGS 8に比べ弱いことが判明した。そこで、このRGS 8の受容体結合性についてBRET解析を行い、実際の生細胞内で本当に結合しているかどうか検討した。結果、RGS 8はM1に結合しているのに対して、RGS8Sは殆ど結合していないことが示された。またさらに、RGS 8のN端側の欠失変異体を作成して、RGS 8が受容体を認識する部位をサーチし、N端6〜9残基の配列(MPRR)がM1受容体認識に重要であることを明らかにした。そこで、この配列の連続したR残基に注目してその両残基をAに置換した変異体を作成したところ、Mli3への結合能が激減することが明らかになった。このように、RGS8のN端を介した受容体への直接結合の分子基盤が明らかになってきた。今後は、RGS 8とGq受容体の結合の生理的意義、RGS 8のN端へのCaM結合とGq受容体結合の相互関係、さらにGAP能との相互作用を明らかにして、複合体の実体とその機能発現の機構を解明していく。また、RGS 8Sには、未知のパートナーが存在する事が十分期待され、その複合体の解明が必要である。
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