研究概要 |
ミトコンドリアによるエネルギー産出機能の維持のためには,ミトコンドリア内の鉄の恒常性維持が重要である.本研究では,ミトコンドリア内の鉄の恒常性に関与する蛋白質がABC輸送体であり,FeS前駆体などのミトコンドリア膜を介しての輸送に関与している可能性が強いことに注目し,これらの蛋白質の一つであるヒトABCB6蛋白質について,主としてNMR法を用いて構造・機能解析を行うことを目的としている. ABCB6のC末端ATPaseドメイン(ABCB6-C)について安定同位体標識試料を調製し,3重共鳴NMRの手法を用いてapo型とADP結合型の主鎖NMRシグナルの帰属を行った.apo型の解析の結果,約75%の残基について主鎖NMRシグナルが帰属された.残る25%の残基はWalker A, Walker B, D-loop, Q-loop, H-motifなどのADP/ATP結合領域と,Helicalサブドメイン(膜貫通ドメインとの相互作用に寄与すると考えられている)に局在していた.さらに詳細なNMR解析を行った結果,上記ADP/ATP結合領域, Helicalサブドメイン付近に動的な構造多形が存在し,化学交換によるシグナルの著しいブロードニングが起こっていることが示唆された.ADP存在下ではアデニン環とα/βリン酸結合領域で構造の固定化が観測されたが,他の領域では「動的構造多形性」は依然として存在していた.この現象は原核生物のABCでは示されていたが,本研究によって初めて真核生物のATPaseにも存在することが明らかになった.この「動的構造多形性」は全てのABC輸送体が共通に持つ性質である可能性が強い.動的多形性がADP/ATP結合領域のみならずHelicalドメインにも存在していることから,この性質がABCドメインと膜貫通ドメインの間のシグナル伝達機構を担っている可能性が強く示唆される.
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