細胞質分裂は、分裂面に一過的に形成されるアクチン繊維とII型ミオシンを主成分とする収縮環を基盤とする分子装置により引き起こされる。従来は、細胞膜をくびりきるために必要な収縮環の収縮力は、アクトミオシンの相互作用による点で筋収縮と同様であると考えられてきた。ところが最近、収縮環においてアクチンとミオシンは非常に早いターンオーバー速度をもっことが明らかにされた。このことは、収縮環の構造が、筋肉を構成するサルコメアとは大きく異なることを示唆する。従って、収縮環の構成成分の機能と動態を収縮環のダイナミクスと結びつけて理解することが不可欠である。そこで私は、収縮環による細胞質分裂の分子機構が最も良く解明されている分裂酵母をモデルに用いて研究を進めた。 今年度は、アクチンのダイナミクスを誘導する因子であるAdf1の制御機構について重点的に解析した。Adf1がアクチン繊維を脱重合する際に、アクチンモノマーとAdf1の複合体が生じる。本研究により、細胞内のアクチンとAdf1のモル比は、6:1であり、細胞内のアクチンの約半数が重合状態であることが示された。これより、Adf1が効率的にアクチン繊維に作用するためには、アクチンモノマーからAdf1を積極的に解離する機構が必要であると予想した。その候補として、アデニルサイクラーゼ複合体の成分であるCap1に着目した。最初に、Cap1がAdf1と競合的にアクチンモノマーに結合することを生化学的に同定した。次に、Cap1欠損細胞では、Adf1が局在しない異常なアクチン構造体が形成された。この構造体は、収縮環の収縮に伴い生じる過剰なアクチン繊維に由来するようであった。おそらく、Cap1は、Adf1を効率的に収縮環のアクチンに作用させるために必要なのだろう。この機構は、細胞質分裂後にアクチンが他の細胞内現象のために再編成されるためにも重要であると考えられた。
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