ミオシンは細胞内で様々な活動をしている代表的な分子モーターである。その多様な働きを反映するようにミオシンの活性の制御法も様々である。平滑筋ではカルモジュリンがカルシウムイオン濃度変化を感知してミオシン軽鎖キナーゼを活性化し、軽鎖をリン酸化させることによるミオシンの活性を制御している。このリン酸化による制御は非筋肉細胞やアメーバにおいても使われているが、ミオシンモータードメインから遠く離れた軽鎖のリン酸化がどのようにしてミオシンの酵素活性を制御するのかは未だ解明されていない。HMMの2次元結晶の解析からリン酸化されてないHMMでは、一方のモータードメインが他方のコンバーター領域に潜り込み、アクチンと結合できなくなっているというモデルを出しているがどのようにしてその潜り込みが起こるのかは明らかになっていない。 わたしはこの2年間の研究で分子キメラ法によりこの非リン酸化ミオシン頭部の潜り込みに関わると思われるArg残基を発見した。このArgはコンバータ領域近傍にあるAlaに変え電荷をなくすとミオシンはリン酸化による制御を受けなくなった。また、この変異ミオシンを発現させた細胞性粘菌は細胞分裂をうまく行えないことが分かった。In vitro motility assayで調べたところ、このミオシンの運動活性には問題がなかったので、細胞分裂時に収縮環に集合したり両極性フィラメントを形成する能力に問題があるのではないかと考えられる。リン酸化によるミオシン分子の活性制御がミオシンの細胞内局在や分子集合とどのように関係するかは生体システムとして考えると非常に興味深い問題である。
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