本研究は、非平衡開放系としての分子機械のエネルギー変換のメカニズムを理解することを目的とするものである。特に、仕事をするためには変位と力の相空間上で考えた時に行き帰りの経路が異なる、すなわち相空間上でループを描く必要があるという点に着目する。この点に着目して実験系を工夫しつつ研究を進めることで、現実に起きている現象をしっかりと観察し、その本質をとらえて、理論モデルを作成することができる。また、数値計算などの手法も援用し理解を深める。実験系としては、実際の分子機械を用いることも考えられるが、われわれがこれまで行ってきた非平衡開放系の実験系を工夫することにより、制御が容易なモデル系を構築できると考えられる。そのようなモデル系における化学-機械エネルギー変換の機構を調べることで分子機械の実空間モデルを物理的に理解することを目的として研究を進めた。具体的には次にあげる成果が得られた。 ・化学振動反応であるBZ反応の微小液滴の自発的運動に関して、内部の流れを観察することによってそのメカニズムを明らかにした。 ・水/アルコール系におけるアルコール液滴の自発的運動に関して、環境の温度を変化させることによって運動の様子が異なることを見出した。この現象をもとにして反応拡散系に基づいて自発的運動を説明するモデルの妥当性を考察した。 ・油、水、界面活性剤系において、ゲルの生成とカップルして液滴が自発的に変形、運動するような系を見出し、生物におけるブレブ形成と比較しながら議論した。
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