本研究は、細胞質中のアクチン系細胞骨格が発生した力を細胞外へ伝達する機構と、その構造を明らかにすることを目的としている。非神経細胞では、接着斑と呼ばれる構造がその機能を担っていると考えられている。しかし、神経細胞には接着斑構造は存在しない。そこで、非神経細胞と神経細胞の接着機構を比較するために、接着斑に集積することが知られているビンキュリン、VASPやlaspファミリー分子と蛍光タンパク質の融合タンパク質をメラノーマ細胞株B16と神経芽細胞腫株NG108-15に発現させ、その動態を蛍光消光回復(FRAP)法によって解析した。 B16細胞では、全ての融合タンパク質において接着斑への集積が観察された。しかしNG108-15細胞では、どの融合タンパク質においても接着斑に特有な斑点状の蛍光は観察できなかった。また両細胞株共に、laspファミリー分子はフィロポーディアとストレスファイバーに、VASPはラメリポディア先端に集積することが観察された。FRAP法による解析の結果、B16細胞の接着斑における各分子の交換速度は、ビンキュリンが最も遅くVASPとlaspファミリー分子が同程度であることが分かった。 以上の結果から、NG108-15細胞には既知の接着斑分子から構成される細胞接着構造は存在しないと考えられる。加えて、VASPとlaspファミリー分子の局在がまったく異なったことから、両タンパク質分子には少なくとも二つの異なった細胞内局在制御機構が存在することも明らかになった。
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