M期から複製開始にいたるまでの時期は、分配された染色体が説凝縮し核膜が再構成されていくというダイナミックなプロセスが観察されるのみならず、次の細胞周期に進行するか否かのデシジョン、それに伴う複製開始複合体の形成など、細胞核の構造と機能に直結した課題が凝縮されている。本課題は、ヒト染色体の姉妹染色体の分配時期から複製開始にいたるまでの染色体構成因子の量的な変動を、質量分析をもちいたプロテオーム解析により網羅的に明らかすることを目的としている。 これまでに、非イオン性界面活性剤処理、マイクロコッカルヌクレアーゼ処理、塩処理、超音波処理を順に施すことにより、ほとんどの成分を可溶化できることを見いだした。しかしながら、この方法ではヒストン以外のクロマチン結合蛋白質は失われることがあきらかとなった。この間題点を克服するための方法について検討したが、後述のように、質量分析、インフオマティックス技術が向上したため、精製度については意識せず、界面活性剤により得られるラフな分画を解析に用いるのがよいと判断した。 質量分析器を用いたタンバク質の定量解析技術の改良を沖縄大学院大学先行事業の長尾博土と協力して進めている。あるタンパク質に帰属する同定ペプチドの数が、絶対量と相関があることを利用して、検索エンジンの同定結果をプロセスして定量情報を抽出する一連の流れをほぼ確立した。これを用いることにより、大きな(1桁以上の)量的な変化があるタンパク質を見いだすことが可能である。また、この技術を基盤として、染色体の機能的に非常に重要な領域であるヘテロクロマチン領域について解析を行い、細胞周期による構成因子の違い、サブタイプによる構成因子の違いなどが明らかとなり、染色体構成因子のプロテオームの解析に目途がついたと考えられる。
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