研究概要 |
本研究は、核移行シグナル受容体として知られるimportin αが、単独で核に移行するという現象を発見したこと(Miyamoto et al., EMBO J., 2002)に端を発する。我々は、それ自身では核に入らないと考えられていたimportin αが単独で核へ移行する能力があり、その移行効率が細胞ごとで明らかに異なることを発見した。このことは、importin αの単独核移行に関与する核膜孔複合体構成分子、ヌクレオポリンが細胞ごとで異なることを示唆している。本研究課題では、単なる物質の通り道として理解されてきた核膜孔複合体が、ヌクレオポリンの存在様式を変えることで多様性をもち、それが細胞機能、特に核輸送や核内イベントに積極的に関与している可能性を検証しようとするものである。 我々はこれまで、細胞が酸化ストレスにさらされた際に、細胞質に多く存在するimportin αが核に集積する現象を見出している(Miyamoto et al., J.C.B., 2004)。そして、このストレス応答的な核集積に単独移行活性が関与していることも明らかにしている。そこで、酸化ストレス条件下において、ヌクレオポリンの動的変化が見られるかどうかを、各ヌクレオポリンに特異的な抗体を用いて検討した。その結果、importin αとの結合が報告されているNpap60/Nup50の局在が変化することを見出した。このNpap60のimportin α結合領域をセミインタクトin vitro核輸送系に加えたところ、importin αの単独核移行が阻害された。このことは、Npap60がimportin α単独移行で機能し、かつ酸化ストレスによる核内集積に関与している可能性を示唆している。最近になって、我々は、このNpap60が哺乳類の培養細胞中に少なくとも2種類存在し、両者はimportin αとの結合領域であるN末領域が異なるスプライシングバリアントであることを見出した。今後は、2種類のNpap60がどのようにimportin αと関わっているのかを明らかにしていくとともに、酸化ストレスなど細胞環境の変化に応答してその存在様式が変化することが、核機能、特に核輸送にどのように影響しているかを解明していく。
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