原核細胞では染色体DNAが膜構造に包まれておらず、このため真の核とは見なされず、細胞内の染色体DNAの高次構造体は「核様体」と呼ばれる。そして、むしろ核様体は、凝縮した染色体に近い。この核様体は原核細胞内で、規則的な配置を取っていることが知られており、真核細胞の染色体が同じく規則的な核内配置を取る点で類似している。このように一見異なっているように思われるが、原核細胞の核様体の構築やその配置は、真核細胞の核内の染色体の構築やその配置と共通する分子基盤があると考えられる。この研究では、バクテリア核様体の動的形態変化を司る因子であるバクテリアコンデンシンMukB、新生DNA鎖の凝集因子SeqA、バクテリアセントロメアmigSとその結合因子らが核様体の構築に関わる際の分子機能の解明をめざす。 これまで、核様体の観察はDNA特異的な蛍光色素を使って観察していた。この方法は感度、特性共に高く、非常に優れた方法である。しかし、近紫外の励起波長を使う点などで、生細胞の連続観察には必ずしも適さない。位相差顕微鏡では媒質の屈折率を上げることで、細胞内のコントラストを上げることができ、たとえばゼラチンで包埋した大腸菌は、その核様体を無染色のまま観察できるようになる。しかしながら、ゼラチンの自家蛍光により蛍光タンパク質の観察は不向きであった。このゼラチン法の弱点は、全反射蛍光顕微鏡を使用することで克服することができと期待された。そこで、全反射蛍光顕微鏡とゼラチン法を使い、核様体の連続した観察と共に蛍光タンパク質で標識した目的のタンパク質や染色体領域を観察方法について技術的な方法を模索した。これまでに、全反射蛍光顕微鏡を利用することにゼラチンの自家蛍光を抑え、高いS/N比のもとで観察できることを確認した。核様体の動きを生きた細胞で観察するため、DNA結合タンパク質hupAのGFP融合株の作成を行い、核様体の標識を可能とした。この株を使い、全反射蛍光顕微鏡での観察を行っている。
|