テロメア機能は、染色体末端からのDNA損傷シグナルの発信を抑制し、染色体間の異常な組み換えによる染色体恒常性の破綻、その結果もたらされる遺伝情報の継承異常を防止する役割を果たしている。本研究では、テロメア末端と損傷末端の違いを規定する因子とその制御メカニズムをモデル生物を用いて明らかにすることにより、テロメアの短小化(機能異常)の認識を介した老化シグナル発信の分子機構の解明を目指している。 本年度は、テロメアがもつチェックポイントシグナル抑制活性(アンチチェックポイント活性)の分子的実体を明らかにするためのアプローチを行った。そのような因子は、細胞内で過剰に産生された場合にはDNA障害に対する正常な細胞周期応答を阻害すると考えられる。出芽酵母のテロメア関連因子のうちでこのような活性を有する因子を探索した結果、末端保護複合体の構成因子の一つがそのような活性をもつことが明らかになった。この因子の過剰生産により、DNA障害によるRad53キナーゼの活性化は阻害されること、その結果通常おこるはずの細胞周期停止が抑制され、細胞はDNA損傷に対して超感受性を示すこと、を見いだした。 この活性が細胞内で実際のテロメア機能に必須であるか否かについて、さらに検討を続けた。まずこの活性が本因子のC末端領域に依存することが示された。しかし、この領域をもたないタンパク質を発現している酵母株は正常に生育することが可能であった。このことは、テロメアのチェックポイント抑制機能が複数のメカニズムにより重複的に行われていることを示唆している。
|