多くの生物において、プログラム細胞死は組織形成の課程で広範に認められ、体内のホメオスタシスの維持においても重要な役割を果たすと考えられる。我々はショウジョウバエをモデルとして細胞死のシグナル経路を解析してきたが、我々を含む複数のグループによって細胞死実行プロテアーゼであるカスパーゼ活性と雄性外生殖器の形態形成との相関が見出されてきた。ショウジョウバエの雄性外生殖器は、雄の体内で観察される直腸を360度取り囲むように配置される射精管の形態から、その形成時に回転することが発生の重要なステップとされているが、カスパーゼ阻害による雄性外生殖雛の形成不全はこの段階においての回転が不完全となってしまうと考えられた。本研究において我々は、蛹期における雄性生殖器め回転をen-GAL4/UAS-bCD8-GFP系統のハエを観察することでイメージングすることに成功した。生殖器の回転は、カスパーゼ阻害剤のp35を発現させた系統(en-GAL4/UAS-bCD8-GFP UAS-p35)で途中停止したことから、カスパーゼが雄性生殖器と内部後腸の正常配置の制御に関与している可能性が考えられた。蛍光タンパク質を用いたFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用して作製したカスパーゼ活性化のインディケーター(SCAT)を発現するトランスジェニックショウジョウバエを作製し、雄性外生殖器形成課程のラィブィメージングを行った。その結果、回転時またはその前後においてカスパーゼの活性化は、回転している外生殖器原器を取り囲む細胞で観察された。最近我々は、微弱なカスパーゼ活性が細胞死ではなく細胞運動や細胞分化を制御することを明らかにした。今後細胞死シグナルが、回転する課程での周辺上皮細胞の津動を制御する可能性について検討したい。
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