ほ乳類の脳には形態学的に性差がみられる神経核(性的二型核)が存在する。発達期の性的二型核におけるアポトーシスの性差は神経核の性差形成にとって重要であることが知られているが、性的二型核形成に関わるアポトーシス制御分子機構の詳細は不明である。本研究では、前腹側脳室周囲核(AVPV)とSDN-POAに着眼し、発達期のアポトーシス制御機構を解析した。前年度の研究成果から、AVPVおよびSDN-POAにおけるアポトーシスの性差に、Bcl-2およびBaxによって調節されるカスパーゼ3の活性化を介したアポトーシス制御経路が関与することが明らかになった。本年度研究では、発達期のAVPVとSDN-POAにおけるBcl-2およびBaxの発現に対するエストロゲンの影響について検討した。エストロゲンを投与した雌仔ラット、溶媒投与雌仔ラットおよび無処置雄仔ラットからAVPVとSDN-POAの組織片を採取し、Bcl-2とBaxのタンパク質発現をウェスタンブロットにより、mRNA発現を半定量RT-multiplex PCRにより解析した。その結果、雌仔ラットのSDN-POAにおけるBcl-2タンパク質およびmRNA発現量はエストロゲン投与によって有意に増加し、無処置雄仔ラットの発現量と同程度になった。Baxのタンパク質およびmRNA発現に対するエストロゲンの影響はみられなかった。一方、雌仔ラットのAVPVにおけるBcl-2タンパク質発現はエストロゲン投与によって減少傾向を示したが、対照群雌との間に有意な差はみとめられなかった。Baxタンパク質発現へのエストロゲンの影響はSDN-POAと同様に見られなかった。以上の結果から、発達期のSDN-POAではエストロゲンの作用によりBcl-2の発現が増強されることでアポトーシスの性差が生じていることが示唆された。AVPVに関しては、SDN-POAとは反対に、エストロゲン作用によってBcl-2の発現が抑制されるためアポトーシスの性差が引き起こされる可能性が考えられたが、この点については詳細な検討が必要である。
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