1990年、精巣決定因子としてSRY(sex determining region on the Y chromosome)が発見されたが、どのような機構でSRYが発現され、どのような機構で性決定されるか明らかとなっていない。そこで、私たちはSRY影響下にある因子を解明するため、ヒト精巣腫瘍由来の細胞を用いて、SRYを過剰発現させ、それにより発現量が変化する因子をプロテオミクス、マイクロアレイの手法を用いて解析を行った。その結果、プロテオミクス解析からはSRYの過剰発現により、多くのタンパク質の発現が抑制されており、抑制されたタンパク質の多くはタンパク質の合成やおりたたみ(folding)といった分子シャペロン的機能をもつタンパク質であることがわかった。マイクロアレイ解析からはup regulateされた遺伝子の多くは転写調節因子であるzinc finger proteinであることがわかった。また、SRYの発現は細胞周期におけるG2/M期にダメージを与え、細胞増殖に影響を及ぼしていることも明らかとなった.現在、これらの因子について性分化との関わりについての解析を行っている。次に、SRY近傍の塩基配列のデータベース解析から、SRYの成り立ちについて仮説設定を行い、それを証明すべく実験を行った。その結果、SRYの発現調節において重要な転写因子を発見した。転写因子を過剰発現させると、SRYの発現が増加し、RNAiによりKnock downさせると、SRYの発現量が低下した。さらにプロモーター解析やESMA解析により、転写因子はある特定のSRYプロモーター領域にダイレクトに結合することを示した。従って、この転写因子はSRYの発現調節にとって極めて重要であることを示した。
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