昨年度までに、Dlg遺伝子のノックアウトマウスでは雌で膣の形成不全、雄で精嚢の形成不全が見られたことから、Dlgは生殖管の正常発生に不可欠であることが示された。そこでDlgが細胞内の何らかの蛋白質を膜近傍に局在させることで、細胞の機能を調節しているのではないかとの仮説を立て、Dlg KOマウスと野生型マウスとの間で、細胞内分布の異なる蛋白質を探すという方法で、この仮説の検証を行ってきた。対象としては、(1)KOマウスの表現型がDlgと類似しているものなど、機能的な関連が予想されるもの、(2)Dlg KOマウスで発現が抑制あるいは亢進している可能性があるもの、(3)Dlg分子との相互作用が予想されるもの、を選んだ。(1)、(2)については、BMP受容体、Ephrin受容体などを解析したが、WTとKOの間で細胞内局在に差があるものは発見できなかった。また、(3)において、Dlgと同一複合体に含まれることが報告されているE-cadherinについては、野生型、KOマウスの間で細胞内局在パターンの相違は見られなかった。一方、C末にPDZ class I domain binding motifをもつWntシグナル受容体frizzled 1の細胞内分布を検証したところ、野生型マウス尿管上皮細胞では細胞のアピカル面、細胞質、側壁部などに分布し、側壁部ではDlgと共存していたのに対し、KOマウスでは、frizzledのシグナルは細胞頂部面でやや強く、あとは細胞内部に一様に分布しているだけで、側壁部への集積はほとんど認められなかった。さらに、PDZ class I domain binding motifをもたないfrizzled 3は、細胞の側壁部には分布していないことも明らかになった。このことから、マウス胎仔の尿管上皮細胞では、frizzled 1の細胞側壁部への局在が、Dlgに依存している可能性が示された。以上の結果から、発生期の上皮細胞では、Dlgがfrizzledの細胞内局在を規定することで、Wntシグナルの細胞内への伝達効率を調節しているのではないかと考えられる。
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