研究概要 |
爬虫類である全てのワニ類と大部分のカメ類の性決定は、環境要因(温度依存性)によって性が決定する。しかし、いわゆる性染色体によらない温度依存的性決定の分子機構については、ほとんどわかっていない。本研究はこの爬虫類の性決定・性分化の分子機構を解析することを目的としている。本年度は、ワニの性分化に重要な役割をなしている性ホルモン(エストロゲン)の受容体遺伝子の単離を行ったことを報告している(Katsu et al., 2006)。クロコダイルからエストロゲン受容体遺伝子を単離して発現を調べた。これまで単離されている様々な生物からのエストロゲン受容体との相同性から鳥類との相同性が非常に高いことが判明した。さらに、エストロゲンの受容体のリガンドとして働く17beta-estradiol (E2)の生成に重要な役割をなすアロマターゼ遺伝子の発現様式を調べたところ、性が決定する時期に合わせて発現が誘導されることが分かった。一方、エストロゲン受容体はこの時期にはその発現レベルは変動しなかった。この結果は、胚の中で、アロマターゼが発現するとそれによってE2が生成し、それをリガンドとするエストロゲン受容体が活性化して、生殖腺をメスへと分化させるカスケードが考えられる。それを踏まえて、アメリカワニアロマターゼ遺伝子の発現調節の分子機構解析に取り組んでいる。現在、アロマターゼゲノムDNAの解析を進めている。またプロモーター領域2kbの配列がすでに解析済であり、他の生物で報告されている転写因子であるSF1の調節領域が存在することが判明している。現在、アロマターゼゲノムDNA全体の構造と、転写調節機構について研究を進めている。また、ディファレンシャル・ディスプレイ法を用いて、性決定時期に特異的に発現が変動する遺伝子(性決定関連遺伝子)の同定を試みている。
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