本研究では、コラーゲン繊維など巨大かつ不均一な相互作用系における分子間相互作用を立体構造の観点から解明するNMR戦略の開発を目的とする。実施例として、不溶性超分子であるコラーゲンと、コラーゲン認識蛋白質ディスコイディンドメイン(DDR)受容体DSドメインの相互作用系、およびビーズに固定化したカリウムチャネルGIRKの細胞内ドメインとスペルミンの相互作用系を取り上げた。 (1)NMRにより、DSドメインの立体構造を決定した(βシート領域の主鎖原子r.m.s.d.は0.49Å)。また、転移交差飽和法によりDSドメイン上のコラーゲン結合部位を同定した。しかし、コラーゲン存在下のNMRスペクトルは分解能が低下しており、試料の高速回転による高感度化・高分解能化が必要であることが分かった。(投稿準備中) (2)NTA-シリカビーズに固定化したGIRKを懸濁したスペルミン溶液のNMRスペクトルを測定した。MAS回転数2-9kHzにおいて安定した回転が得られ、スペルミンのNMRシグナルが高分解能で観測された。 (3)Zn-NTAビーズに固定化したGIRK細胞内ドメインとスペルミンとのNOE生成速度は、固定化していない場合に比べ3倍程度亢進しており、このことはレジンに固定化することにより見かけの高分子量化(超分子化)に成功したことを示している。 (4)(3)の検討から、GIRKビーズースペルミンの間の転移NOEシグナルにMAS回転数の変化の影響を受けるものと受けないものがあることを見出した。現在、新たな相互作用解析法への展開を目指し、詳細にその影響の原因を究明している。また、コラーゲンとDSドメインのMAS条件下での転移交差飽和法へ発展させる予定である。
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