1.新規赤外分光光度計の開発 酵素タンパク質の反応機構を明らかにするためには、活性部位に異方性をもって配置されたアミノ酸の反応性の違いを検出し得るほど高感度の時間分解赤外分光法が必要不可欠である。しかし、どのようなタンパク質にも適用可能な時間分解赤外分光法は開発されていなかった。この目的のために本研究では、赤外マルチチャンネル検出器と流路が200μm×200μmのCaF_2製フローセルを組み合わせ、赤外白色レーザー光を光源とする新規赤外分光光度計を設計した。まず、グローバー光源を用いて、一酸化炭素結合型チトクロムc酸化酵素を測定したところ、νc-o由来の吸収帯の検出に成功した。次に一酸化炭素結合型酵素の光乖離と再結合のダイナミクスの追跡に挑戦し、Δt=0、20、40msの時間分解赤外吸収スペクトルの測定に成功した。したがって、フローセルを用いて酵素の構造ダイナミクスを測定できる新規装置が稼働した。より高精度のスペクトルを得るための光源である赤外白色レーザーは、現在、最終調整を行っており、一ヶ月以内に終わる予定である。 2.ミトコンドリア中のチトクロムc酸化酵素による酸素活性化反応の追跡 ミトコンドリア中のチトクロムc酸化酵素の時間分解共鳴ラマンスペクトルを測定した。酸素化型、P型およびF型反応中間体に由来するν<Fe>-o振動モードの観測に成功した。これらの振動数は、可溶化酵素の、対応する反応中間体の振動数と一致した。一方、酸素化型反応中間体は、ミトコンドリア中では反応開始後1.4msでも観測されたが、可溶化状態では0.5ms程度で消失することが知られていた。このことは、ミトコンドリア内膜系がチトクロムc酸化酵素の反応中間体の寿命に影響を与えていることを意味するが、そのしくみを調べることが次の課題である。
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