光化学系II(系II)複合体は20種類以上のサブユニットタンパク質や約40分子の葉緑素をはじめ、Mn、Caなどの機能的な原子を統合して構築される巨大な膜タンパク質複合体であり、酸素を産生する機能を担っている。本研究は、この複雑な系がどのようにして構築され、変動する自然環境の中でどのように維持・管理されているのかを解明する事を目的としている。そのために、(1)個々のサブユニットの結合様式および機能の分析、(2)調節機構に関与していると考えられるタンパク質の機能分析、(3)系II複合体の安定化機構、(4)系II複合体およびそのサブユニットなどの精製および結晶化、について研究を進めた。 (1)PsbUタンパク質は、ラン色細菌の水分解系において機能的Cl^-結合タンパク質であると考えられてきた。しかし、そうではなく、水分解系構造の安定化およびS2-stateの健全な進行に寄与するとともに、塩環境の変化に対する応答機構にとって重要な機能を果たしている事が明らかになった。 (2)Sll1252タンパク質は、ラン色細菌の系II複合体で新たに見出したものである。このタンパク質を欠失させた突然変異体では、光捕集機構であるフィコビリゾームから系II反応中心への光エネルギー伝達効率が低下しており、両者間の光エネルギーの配分機構に関与していると推測できた。 (3)異なる温度で培養したラン色細菌細胞を用いて、系II複合体の熱安定性を比較・検討した。細胞及び単離精製した系II複合体レベルでの酸素発生系の熱安定性、併せて膜の流動性を調べた結果、生育温度の変化に伴って脂質組成を再編成し、効率的な光化学反応を実現している事が明らかとなった。 (4)系II複合体の機構をさらに厳密に解析するために、結晶化に取り組んだ。ラン色細菌だけでなく、原始紅藻を材料にして精製度及び健全性の高い系II複合体を得る事ができ、現在までに結晶様のものが得られた。
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