研究概要 |
脊推動物の神経発生においては、ペアードドメインとホメオドメインを持つ転写因子Pax6が前脳・菱脳・脊髄の神経上皮細胞で領域特異的に発現している。自然発症のPax6変異動物の表現型から、Pax6は非常に多岐に渡る神経系の発生事象に関わることが知られており、様々な標的遺伝子の発現とその下流の遺伝子カスケードを統率し、脳の発生を司ると予想されるが、中枢神経系における標的遺伝子はほとんど明らかになっていない。そこで我々は、神経発生におけるPax6標的遺伝子と下流遺伝子ネットワークを解明するため、野生型とPax6ホモ変異型ラットの初期脳における網羅的な遺伝子発現比較解析を行った。ラット11.5日胚の菱脳及び終脳の領域よりRNAを抽出し、約30,000転写産物に対応するプローブセットを搭載した高密度オリゴヌクレオチドアレイGeneChip(Affymetrix)を用いて得られた遺伝子発現プロファイルを比較し、Pax6の下流遺伝子群を同定した。さらに、リアルタイム定量PCRにより発現量の比を検証するとともに、in situハイブリダイゼーションで発現様式の確認を行い、Pax6標的候補としてFabp7,Unc5h1,Cyp26b1,Dmrt4などの遺伝子を同定した。 Pax6変異胚で最も顕著な発現減少を示した遺伝子は脂肪酸結合タンパク質Fabp7であった。電気穿孔法と全胚培養系を組み合わせた過剰発現による機能獲得実験や野生型胚でのRNA干渉による機能欠失実験などの機能解析を行い、Fabp7遺伝子が転写因子Pax6の標的候補であり、神経新生に重要な役割を担うことをJ. Neurosci.誌に発表した。また、LacZレポータートランスジェニックラットの作製により、Fabp7遺伝子発現における領域特異的エンハンサーが転写開始点上流5.7kb以内に存在することを見いだした。
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