研究概要 |
本研究では、ヒストン結合活性を有する酸性分子シャペロンによるクロマチン構造制御機構の解明を目的として研究を進めた。我々はアデノウイルスクロマチンの構造変換因子として3種類のTemplate Activating Factor (TAF)を同定し、その機能解析を進めている。TAFはいずれもヒストンと相互作用し、クロマチン形成を促進する活性を持つ。しかしながら細胞内での機能はほとんどわかっていない。TAFの細胞内機能を明らかにするために、TAFのクロマチン構造変換活性を検討した。実験系をより単純化するために、クロマチン構造の基本単位であるモノヌクレオソームを196塩基対のDNAと組換え体のヒストンによって再構成した。再構成に利用したヒストンは細胞周期に依存してクロマチンに取り込まれるヒストンに加え、ヒストンヴァリアントと呼ばれる細胞周期に依存せずにクロマチンに取り込まれるヒストンのサブタイプを調製した。再構成したモノヌクレオソームにTAF-I、TAF-II/NAP-I,TAF-II/Nucleophosmin/B23を加えてインキュベーションすると、TAF-II/NAP-IにおいてヌクレオソームのスライディングとヒストンH2A/H2Bのクロマチンからの解離が見られた。H2AのヴァリアントであるH2A.Bbd/H2BはNAP-Iとのインキュベーションによって、より効率よくヌクレオソームより解離し、H2A/H2Bとの交換反応が起こることが明らかになった。TAF-IやTAF-IIIでは非常に効率は悪いものの、同様の活性を有するものと考えられた。したがって、TAFは細胞内でヒストンのヌクレオソームからの解離と受け渡しを通して、クロマチンの構造変換因子としてDNA複製や転写反応に関与する可能性が考えられる。さらに、ATP依存性のクロマチン構造変換因子やヒストン修飾因子との協調的なクロマチン構造変換機構に関して検討を行っている。また、TAFと同様のヒストンシャペロン活性を有する細胞内因子の探索に関しても現在進めているところである。以上のような解析を通して遺伝子発現機構の一端を明らかにすることを目標に研究を進めている。
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