本研究は年間降雨量が400mmに満たないような西アジア乾燥地にいかに食糧税産気偉材が波及したかという、いわゆる周縁地帯の二次的新石器化の問題を解明することを主眼としている。本年度は主に三つの研究をおこなった。 第一は、シリア砂漠北部において過去に調査された新石器遺跡のデータベース作成である。ビシュリ山系西部にあたるエルコウム盆地とパルミラ盆地における既知の遺跡を網羅的にリスト化して検討した。その結果、100近くの遺跡を認めた。いずれも先土器新石器時代末期以降の遺跡であり、当地の新石器化もその頃始まったことが推定された。また、北方のユーフラテス川流域に類似する伝統をもつものと南方のアラビア砂漠に近似するものという二つの集団が混在して進出していることも明らかになった。 第二は、その砂漠外縁部にあたるシリア東北部でのフィールドワークと収集した新石器時代標本の分析である。ハブール地区で最古の新石器時代集落とされるテル・セクル・アル・アヘイマルの動物骨、植物残滓を分析し、紀元前8000年頃当地へ進出した新石器時代人は、当初より植物栽培・家畜飼育技術を有していたことを明らかにした。 第三は、イラン南西部、ザグロス山中の乾燥高原、マルヴダシュト地方における食料生産経済波及プロセスの研究である。東京大学総合研究博物館に収蔵される1950-60年代の発掘標本を再分析した。放射性炭素年代測定も実施した結果、当地の新石器化は農耕牧畜発祥の地よりも2000年近く遅い紀元前6千年紀であったことなどがわかった。
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