研究課題
西アジアにおける農耕牧畜の起源の研究は、その自力発生プロセスの研究と、拡散の研究に分かたれる。本研究は年間降雨早が400mmに満たないよ、うな西アジア乾燥地にいかに食糧生産経済が波及したかという、後者の問題を解明することを主眼としている。昨年に引き続き、本年度もこれを三つの点から調べた。第一は、シリア砂漠、パルミラ盆地における新石器時代遺跡の出現過程の研究である。東京大学所蔵標本を再検査し、旧石器時代以降の遺跡数時期別増減を詳細に突き止めた。その結果、紀元前6500年頃、先土器新石器時代末期にほとんど無人であった当地に遺跡が急増すること、しかも、それらの遺跡はキャンプ地とみrたれるものに限定されていることがわかった。これは、牧畜民が進出したことを示唆している。第二は、シリア砂漠外縁部にあたるシリア東北部のテル・セクル・アル・アヘイマル遺跡の研究である。この遺跡は、北メソポタミア平原で最古の新石器時代集落とされる。動物骨、植物残津等の分析結果によって、植物栽培・家畜飼育技術の双方が先土器新石器時代後期に持ち込まれたことが確認できた。放射性炭素年代測定をすすめたところ、その時期は紀元前7300年まではさかのぼること.がわかった。第三は、イラン南西部、ザグロス山中の乾燥高原、マルヴダシュト地方における食料生産経済波及プロセスの研究である。東京大学総合研究博物館に収蔵される1950-60年代の発掘標本、特に、昨年調べきれていなかったギャプ遺跡の出土物などを再分析した。ここでは、紀元前5800年頃、農耕牧畜技術が進入し、以後の生活の基本が形作られたことがわかった。
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