ビシュリ山系を中心とするシリア砂漠新石器時代遺跡のデータベース化、同地域にあるガーネムアルアリ遺跡の発掘、ワディロボム周辺での遺跡分布調査をおこない、初期食料生産民すなわち新石器時代人の乾燥地拡散プロセス解明に関わる基礎データを入手した。そして、その解析により、急速な拡散が生じたのは前7千年紀初頭、いわゆる先土器新石器時代末のことであること、その担い手はユーフラテス川流域で進展した農耕牧畜社会から派生した最初期の遊牧民であろうとの見通しが得られた。 また、現地政府保管あるいは東京大学収蔵のオリジナル資料を用いて西アジア各地の乾燥地における同時期の状況を比較解分析し、ビシュリ山系で得られた成果の評価を試みた。比較地域の一つはシリア砂漠外縁部にあたるハブール平原、他は、イラン高原の乾燥地帯であるマルヴ・ダシュト平原である。その結果、年代はそれぞれ異なるものの、ビシュリ同様、牧畜技術の完成期に新石器時代集落が急増することが明らかになった。また、ビシュリ山系は遊牧民、ハブール平原は天水農耕+牧畜民、マルヴ・ダシュト平原は灌漑農耕+牧畜民による開発であるとの結果が得られた。さらに、これら三地域の全てにおいて系統を異にする遊牧民の石器類が持ち込まれていることが明らかになり、集団間の接触ならびにその経緯に関する考察を進めることができた。すなわち、乾燥地への進出、集団形成過程についてのいくつかのパタンがあったことを指摘することができた。
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