シリア北部、ビシュリ山系において二度の野外調査を実施し乾燥砂漠へ進出した初期食糧生産民の足取りを追うとともに、国内においては関連文献の収集、解析、成果の総合にむけてのモデル化を開始した。主たる研究実績は次のとおりである。 (1) ビシュリのような乾燥地に残されているのは定住集落ではなく、遊牧・放牧などの際に短期逗留したいわゆるキャンプ跡が主である。したがって、そこで採集されるのはもっぱらが不定形の石器のみであり、その時期鑑定、同定の精度が進出過程のモデル化の確度に大きな影響を与える。そのため、既に時代の判明している遺跡、すなわち本特定領域で発掘中のガーネム・アル=アリ遺跡、また、東京大学がかつて調査したテル・コサック・シャマリ、ドゥアラ遺跡の石器群を年代別に分析し、不定形石器の時期鑑定法についての見通しを得た。 (2) これまでの調査によって、当地においては先土器新石器時代の末に遺跡が急増することがわかっていた。今回、さらに詳細な踏査をおこなった結果、次に遺跡が急増するのが青銅器時代前期、すなわちセム系集団の確立期であることがわかった。この間の時期の遺跡が少ないことから、何らかの社会変化、生活構造の変化が生じていたに違いないと推察されるため、その解明に向けた関連情報の収集、分析を開始した。 (3) ビシュリ山系に近接するパルミラ盆地でかつて東京大学が実施した遺跡踏査の成果、採集標本の再分析結果を整理し、時期別遺跡数の増減にかかわる論文を執筆した。これは、上記の結果を比較、解釈するための基礎情報を提供する。
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