1.ビシュリ調査:2009年春の第3次調査ではテル・シャッブート墳丘墓群の試掘調査を実施した。この墳丘墓群は2基の円墳で構成されており、ビシュリ台地の突端に位置している。1号墳の墳丘は積み石による前期青銅器時代のケルン墓であったことが判明した。このケルン墓の発見は、計画研究「セム系遊牧部族の墓制に関する比較研究」班が調査しているビシュリ山地北麓に拡がる中期青銅器時代のケルン墓群との関係性を考える上で興味深い成果を得ることができた。 同年秋に実施した第4次調査では、ガーネム・アル・アリ村にあるワディ・ダバ墓地の未盗掘墓1基を発掘した。墓は前期青銅器時代、ユーフラテス川流域で流行したシャフト墓であった。墓室は楕円形で約2.2×2.8m、高さ1mを測り、墓室の奥側から副葬品の完形、半完形の土器が大量に積まれた状態で発見された。この良質な埋葬証拠を提供できたことは、本研究プロジェクトが目指すユーフラテス川流域の青銅器社会と集団の動態的研究に新たな貢献ができる。 2.テル・タバン調査:発掘調査と文書解読を8月初旬から9月末まで実施した。本年度の調査で最大の成果は、中期アッシリア時代の日乾煉瓦造公共的建物の部屋の床面から粘土板文書群が出土したことである。この中には粘土板文書が少なくとも100点以上詰まっていると思われる。来年度の調査期間中に解体し清掃と解読を開始するが、これまでの出土文字資料にはない新文字情報が期待される。本調査では、計49点の撰形文字資料を採集した。これらの中で注目すべきは前16世紀の粘土板文書片である。この時代の文書の発見は、本計画研究班の研究テーマでもある古バビロニア時代以降のセム系部族アモリ人の北メソポタミアにおける移動や拡散を究明するうえで大きな成果である。
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