本研究の最終的な目標は、メソポタミア地域において精度の高い衛星画像地図をベースマップとした遺跡データベースを作成し、文化遺産の保護に役立てることである。 遺跡を保護するためには、正確な遺跡データベースを整備し、遺跡管理やパトロールに利用することが望ましいが、現状としてメソポタミア文明の詳細な遺跡データベースは存在しない。また、データベースのベースマップとして使用する詳細な地形図を入手することは困難である。例えば、イラク考古遺産庁の職員であっても、最新の地形図を入手することは困難で、1970年代のソビエト軍製10万分1地形図をコーして使用しているのが現状であるという。そこで、西アジア遺跡データベースを作成する上で重要となるベースマップ作成に、解像度が高く位置情報の精度が高いALOS衛星データを用いることとした。具体的には日本において既存の地形図と衛星データを使用し、シリア・ユーフラテス中流域のテル型遺跡の分布を推定した図を作成した。その結果をもとに平成19年8月シリアにて現地踏査を行い、衛星画像解析による遺跡の自動抽出の精度向上をはかった。これまでの研究としては、解像度90mのSRTM標高データを利用したテル型遺跡の抽出が一般的であったが、ALOSから作成した高精度標高データを用いることで、より多くの遺跡が抽出可能となった。これはテル型遺跡の比高と土地被覆、形状を利用するものである。平成20年3月は、環境要因により被覆状況がシリアと異なるヨルダンのテル型遺跡を踏査し、比較的降水量に恵まれた地域に存在する遺跡の教師データを得た。主な衛星画像解析の対象地は、シリア・ビシュリ地域、そしてその結果を適用して入国が困難なイラク・バビロン周辺域にて遺跡分布図の作成を試みた。また、昨年度に引き続いて西アジアの地理情報のデジタル化を進めた。
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