本計画研究班はシリア沙漠のオアシス都市パルミラにおいて、シリア北部ビシュリ山系のセム系部族文化の伝統がいかに残存し、変容しているかを美術・考古学的両側面から明らかにしようとするものである。パルミラ研究はこれまで、シリア、ポーランド、フランス、ドイツを中心に公共建築物の様式や、墓の構造研究などがなされてきたが、パルミラ文化を総体的に周辺資料と検討して、そのセム系的土俗要素を検討することは立ち遅れてきた。よって、本研究においてはパルミラの墓の出土資料の分析とともに、周辺遺跡の出土資料との比較、および東西交易によってもたらされる様々な要素の分析から当時のパルミラ社会の文化の重層的様相を把握することにつとめた。 研究代表者の宮下佐江子は従来より、墓の女性彫像の装身具の分析をおこなっているが、周辺のサルマタイ、スキタイ系要素の抽出、その拡散を中心に考察を試みた。特に、韓半島新羅の石造彫刻に描出されている首飾りの中の一形式が西方起源であることに注目しそのような様式の首飾りの起源と伝播について見通しを獲得した。 研究分担者の津村眞輝子は、シリア出土の周辺遺跡出土のローマコインの資料収集をおこない、その分布とそれらを模倣した現地コインの比較検討を試みた。 このような成果はパルミラにおいて、これまで言われてきたようなローマ帝国属州の自治都市としての地中海世界の影響だけではなく、在地文化がその社会に色濃く残存していることを明らかにしつつある。
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