研究概要 |
量子力学の第一原理に立脚した計算科学的手法により、ナノスケールでの現象に内在するミクロな機構を解明し、それに基づいたナノ構造作成の指針、新物性・新機能を提示するのが、本研究課題の目的である。平成20年度には、主に、以下の4点についての進捗があった。〔1〕実空間密度汎関数法の開発と応用 : 前年度までに実空間密度汎関数法コードを並列アーキテクチャ上でチューニングした。これにより、直径7.6nmのSi量子ドットの電子状態計算が今年度実行された。ドットには、10, 701Si原子と端を覆う1, 996水素原子が含まれており、これは世界最大規模のDFT電子状態計算である。これにより、イオン化エネルギーと電子親和力から導かれる物質の第一励起エネルギーを計算した。シリコン結晶を例にとり、実験値、一電子エネルギー差から求められる値との差異を明らかにした。〔2〕窒化物半導体の原子空孔が引き起こす強磁性の予測 : GaN、InN、AINなどの窒化物半導体は、光デバイスの基幹材料であるが、近年スピントロニクス材料としても有望視されている。今回、電子相関の効果を積極的に取り入れたDFT+Uの手法によりGdドープGaNの電子状態を計算し, カチオン空孔自身がスピン偏極し(空孔あたり3ボア磁子)それがGd原子と強磁性的に結合し、全体で13ボア磁子のスピンが偏極することが見出された。さらにカチオン空孔の数を増やしていくと、エネルギー的に最も安定な状態は、すべてのスピンが強磁性的に結合した状態であることが判明した。〔3〕Si薄膜における電子有効質量異常 : 歪半導体ナノ構造における歪起因のバンド構造変化におよぼす影響についてDFT計算を行った。これにより、最低エネルギー準位のバンドに関して、閉じ込め厚さの関数として谷の移動量、曲率の変化等が、半定量的に予測できることを示した。〔4〕炭素ナノ系でのDFT計算 : ナノ構造で重要になるキャパシターについて、炭素ナノチューブを例にとり、電子密度の漏れによるキャパシタンス増強効果、状態密度の特異性によるバイアス電圧依存性をDFT計算で明らかにした。
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