研究概要 |
昨年度までで、Fe表面上に形成されたPt薄膜系では、Pt薄膜は強磁性を示し、その薄膜上での酸素分子の解離吸着反応の活性化障壁は、Pt表面上に比べ半分以下になることを見出した。本年度は、まず、このナノ構造の安定性を含めた詳細な解析を進めた。その結果、表面第1と第2原子層の層間距離は、バルクの構造に対して3%の減少となった。Wang等の実験によれば、5(±2)%の減少、Leibbrandt等は、4.5(±2,5)%減少と報告しており、計算結果は実験結果と誤差の範囲で一致している。次に、表面緩和を考慮したFe(001)表面上のPt薄膜系の構造最適化計算を実施したところ、表面緩和が抑制され、また、Pt薄膜は、1原子当たり0.42μ_Bの磁気モーメントを持つ結果を得た。下地のFe表面の表面緩和の効果を含めても、Pt原子はスピン分極することが確認された。 また、昨年度、Ni表面上に形成されたPt薄膜系が強磁性状態を取りうることを見出した。本年度はこの系の反応性の解析も進め、活性化障壁は0.5eV程度とPt/Fe(001)系に匹敵することがわかった。活性化障壁は、飛来する酸素分子と表面との距離が約1.5Aのところにある。活性化障壁を効率よく下げるには、表面から垂直方向に突き出した電子状態が関与する必要がある。Pt/Fe(001)系では、スピン分極の結果、Pt原子のd_z^2軌道(表面垂直方向をz方向とした。)が、フェルミレベル近傍にシフトし部分的に非占有電子軌道となっており、反応活性を上げるのに寄与していた。Pt/Ni(110)系では、前者のような単一軌道の鋭い状態密度のピークはフェルミレベル近傍には見られず、d_<yz>,d_z^2,d_<xz>に分散した低い状態密度がフェルミレベル近傍忙見出された。,これらの成分を重ねると前者に匹敵するピーク高となる。したがって、軌道成分は異なるが、両者ともに空間的には、表面垂直方向に分布を持つPtのd軌道が、フェルミレベル近傍に状態密度のピークを持ち、より活性のある電子状態に変化したと考えられる。以上の結果から,人工ナノ磁性構造が触媒能力の向上に寄与する有用な触媒設計の指針が得られた。
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