研究課題
本研究は、アルケンのラジカル重合反応において、高選択的なラジカル付加反応を連続的に可能とする高度分子変換反応を構築し、分子量や立体構造が制御された高分子の精密合成を行い、さらに実用化に適した力量ある精密ラジカル重合反応を構築することを目的としている。本年度は主に以下の成果を得た。1. 高活性マンガン錯体による汎用性の高いリビングラジカル重合系の開発マンガン錯体「Mn_2(CO)_<10>]を光照射下にて用い、マンガンラジカルを発生させこれにより炭素-ヨウ素結合を可逆的に活性化することでリビングラジカル重合が可能となることを見出した。これまでの遷移金属錯体を用いたリビングラジカル重合に比べて、触媒量が少なく、反応が速く、酢酸ビニル、スチレン、アクリル酸メチルなど広範囲のモノマーの重合制御に有効であった。また、炭素-硫黄結合を有するRAFT剤と組み合わせても、同様な重合制御が可能であった。さらに、マンガン錯体を用いた重合系を共重合へと展開した。酢酸ビニルとアクリル酸メチルとの共重合においては、グラジエントポリマーとホモポリマー骨格からなるブロックポリマーが生成した。さらに、アクリル酸メチルと1-ヘキセンとの共重合において、フルオロアルコールなどの極性溶媒を用いることで、交互に近い共重合が可能となり、分子量の同時制御も達成された。このようにマンガン錯体による重合系の高い汎用性が明らかとなった。2. 鉄触媒を用いた環境適合型リビングラジカル重合系の開発塩化鉄とホスフィンからなる単純な触媒系を、炭素-塩素結合を有する開始剤と組み合わせることで、スチレンのリビングラジカル重合が可能となることを見出した。とくに、高酸化状態にある鉄(III)を用いても同様な重合が進行することが明らかとなった。この重合系は、鉄を触媒とした重合であると共に、酸化に対して安定な鉄(III)を出発物質とできることからも、実用化に適した重合系であると期待される。
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