本研究では、天然資源の少ない我が国で炭素資源を有効に活用し、今世紀の社会を支える技術基盤となる環境調和型の実践的有機合成プロセスの確立に向けて、金属を有しない有機酸塩基触媒を独自に創製し、これを有機合成化学の根幹をなす各種の炭素炭素結合形成反応に応じて精密に修飾することで、これまで及びもつかないような反応性・選択性を備えた基盤的炭素骨格形成反応の案出を目指した。まず、環境調和型キラル相間移動触媒の化学では、従来のアンモニウム塩型キラル相間移動触媒に較べ、新たなデザイン型キラルテトラアルキルホスホニウム塩を合成した。この触媒能を調べるために、β-ケトエステルとアゾジカルボン酸ジ-tert-ブチルの不斉アミノ化反応への適用を試みたところ、高エナンチオ選択的に進行することが認められた。この不斉アミノ化反応は、糖尿病合併症治療剤、AS-3201の合成に有用であり、その鍵中間体を効率良く合成することができた。続いて、キラル二官能性アミン触媒のデザインを行った。従来の有機触媒を用いると、アセトアルデヒドとイミン間の直載的不斉マンニッヒ反応ではアルドール反応を含む多くの副反応が進行し、目的のβ-アミノアルデヒドのみを高収率で得ることが困難であった。そこで本研究室で開発された、求核性の低いビナフチル骨格を有するアミノスルホンアミド触媒をこの直截的不斉マンニッヒ反応に適用したところ、目的のβ-アミノアルデヒドが高収率、高エナンチオ選択的に得られた。さらに、キラルジカルボン酸触媒を用いる高エナンチオ選択的不斉イミノアザエナミン反応の開発に成功した。本反応系では立体選択性に優れているのみならず、芳香族由来のアザエナミンを利用することも可能になった。また既存の触媒系においてはシス体が優先することが知られているアジリジン化反応において、トランス体を高立体選択的に生成する触媒系の開発に成功した。
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