本研究ではアミノ酸から誘導されるキラルな官能基エノラートを利用する不斉誘導を行なう。本反応は不斉補助基や不斉触媒などの外部不斉源を必要としない点に特徴がある。これまで同反応が動的な軸性不斉を持つキラルエノラートを活性中間体として進行すると提唱してきた。今回、N-Boc-N-MOM-バリン誘導体のリチウムエノラートのX-線構造解析に成功し、C-N軸性不斉エノラート構造が仮説の域を超えて実体であることを明らかにした。またキラルエノラートの寿命に影響を及ぼす因子を詳細に検討し、溶媒、塩基、基質の構造により-78℃で約400倍の寿命の相違を制御できることがわかった。以上のようにして、特異な不斉誘導を起こす非古典的エノラート化学の科学基盤を確立した。 一方、応用研究として4置換炭素不斉構築の直線的かつ信頼性ある方法として本法を確立することを目的に以下の研究を行なった。L-フェニルアラニンからN-ω-ハローアルキル化、N-Boc化により得られる誘導体をKHMDS/DMF/-60℃で処理すると環化体が98%eeで立体保持で得られる。今回、同反応をKOH/DMSO/20℃という工業的にも有利な条件下に行い、同環化体を91%収率、99%eeで得た。一方、本反応をLiTMP/THF/20℃条件下に行なうと、環化体が立体反転を伴い91%ee、93%収率で得られた。同様にL-リジンから誘導される誘導体をNaHMDS/DMF/20℃で処理すると含窒素スピロ化合物が99%eeで立体保持、72%収率で得られ、一方、LiTMP/toluene/0℃条件下に付すと立体反転を伴ったスピロ化合物が94%eeで得られた。以上のように、安価な入手容易なα-アミノ酸を出発物質とする任意の立体化学を持つ4置換炭素含有含窒素複素環の合成法を確立した。
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