アミノ酸及び乳酸は安価に入手用意な官能基炭素資源である。本研究ではα-アミノ酸や乳酸を官能基炭素資源かつ不斉源として利用し、高度に官能基化された非天然型アミノ酸および環状ユーテル類を合成することを目的としている既実際にこれらの化合物から官能基炭素アニオン種を発生させ、分子内アルキル化を行うと4置換炭素を持つ含窒素複素環や環状エーテルを得ることができる。4置換炭素の不斉構築は現代有機合成の重要な課題の一つであるが、本法ではα-アミノ酸や乳酸を官能基炭素資源かつ不斉源として利用する点に特徴がある。α-アミノ酸由来の官能基炭素アニオン種はC-N軸性不斉エノラートで、15-16 kcal/mol程度のラセミ化障壁を持ち、-78℃では2-20時間程度、20℃で0.01-0.1程度のラセミ化半減期を持つ。一方、乳酸誘導体から生成する官能基炭素アニオン種はC-O軸性不斉エノラートで12 kcal/mol程度のラセミ化障壁を持ち、-78℃でもラセミ化半減期は数秒程度と非常に短い。即ち、このラセミ化速度より速い反応でのみ、不斉誘導が可能である。これらの軸性不斉エノラートの寿命は、α-アミノ酸では窒素の置換基、また乳酸の場合には酸素の置換基により制御可能である。本年度はC-O軸性不斉エノラートを中間体とする不斉反応の開発を行った。多置換フェノールと乳酸エステルより合成したエステルからエノラートを生成させ、その分子内アルキル化による四置換炭素含有キラル環状エーテル類の合成を行い、目的物を最高99%eeで得た。反応中間体のC-O軸性不斉エノラートのラセミ化障壁は、対応するTBDMSエノールエーテルの温度可変NMRより11.5 kcal/mol程度と推定した。このラセミ化障壁は反応温度(-78℃)でのラセミ化半減期で1秒以下に相当する。即ち、極めて寿命の短いC-0軸性不斉エノラートを中間体とする不斉反応開発に初あて成功した。
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