研究概要 |
アルキンのシアノホウ素化反応の反応機構に関する知見を得るため,錯体化学的な検討を行った。炭素13でラベルしたシアノボランと,パラジウム(0)錯体の反応を行ったところ,ホウ素-炭素結合への酸化的付加が進行し,ボリル錯体が生成することがわかった。別ルートで合成したボリル錯体の反応挙動から,この酸化的付加は可逆的であることも明らかとなった。一方,分子内にアルキン部位を有するシアノボランと,パラジウム(0)-トリメチルホスフィン錯体を反応させたところ,触媒反応における反応中間体と考えられるアルケニルパラジウム錯体が高収率で得られた。この錯体は室温では安定であったが,60℃に加熱することで炭素-炭素結合の還元的脱離が進行し,触媒反応で得られるα,β-不飽和ニトリルを収率良く与えた。これらの結果は,触媒的シアノホウ素化において還元的脱離が律速段階となっていることを示唆している。 また,分子内シアノホウ素化生成物の合成化学的利用法の開発を行った。分子内シアノホウ素化-鈴木カップリングにより高収率で得られるホモアリルアルコール体に対して,パラジウム触媒レトロアリル化カップリングを行うことにより,多置換α,β-不飽和ニトリルを収率よく合成した。 次いで,アルキニルボランの炭素-ホウ素結合の切断を含むカルボホウ素化の検討を行った。ピナコールボラン誘導体を用いた触媒探索の結果,トリシクロヘキシルホスフィンないしはジシクロヘキシルフェニルホスフィンを有するニッケル錯体を用いたときに,アルキニルボランのsp炭素-ホウ素結合が切断され,炭素-炭素3重結合にシス付加する新反応を見出した。反応収率はアルキニルボランのアルキン置換基によって大きく変化し,置換基がアリール基またはシリル基の場合に収率良くアルキニルホウ素化生成物が得られた。
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