研究概要 |
キラルなサマリウム配位圏での電子移動を引き金とする不斉反応として、β置換アクリルアミド類の還元的二量化反応を検討した。これまで既に、(R)-1,1'-ビ-2-ナフトール(BINOL)をキラル配位子とし、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を添加剤とする自己組織化型キラルサマリウム還元剤[SmI_2-(R)-BINOL-TMEDA]の調製と、これを用いる高エナンチオ選択的3,4-二置換アジピン酸アミドの合成に成功しているが、本還元剤は非常に不安定で-78℃においても配位子の還元を起こし徐々に失活してしまうため、還元剤の過剰使用や目的物の低収量などが問題となっていた。そこで本研究では、この問題を解決するため、還元されにくい新規単座配位子を9種類合成し、これらを用いて調製したサマリウム錯体の安定性と不斉誘起能に関する検討を行った。その結果、錯体の安定性が増し、還元剤の使用量の軽減と生成物の収率の向上を同時に達成することができた。しかしながらエナンチオ選択性に関してはなお改善の余地が残されている。 同じく還元的二量化反応として、低原子価のキラルチタン錯体を用いる不斉ピナコールカップリング反応を検討した。ここでは、同一分子内に静的軸不斉と動的軸不斉を併せ持つ分子構造を設計し、基質との相互作用をとおして後者を制御するという柔軟性に富む新しい不斉制御法を検討した。具体的には、(R)-BINOLを3位で直接連結させた新規キラル化合物(R,R)-BisBINOLを設計・合成し、本化合物を不斉配位子とするチタン二核錯体を用いて、分子間ラジカルカップリング反応を高エナンチオ選択的に進行させることに成功した。本反応では、動的軸不斉に関与するC-C軸の回転によりinduced-fit型の反応場が構築された可能性を強く示唆しており、新しい不斉制御法として大変興味深い。
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