研究概要 |
本研究では、N-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)および誘導体を分子触媒として利用し、従来にない触媒的炭素ラジカル生成を経る不活性炭素分子の酸化反応による様々な有用な有機化合物の新合成法の開発を行っており、平成18年度は以下に示す研究成果を得た。 1.NHPI触媒を用いるラクタムの一段合成 我々はこれまでに、NHPIを触媒に用い、シクロヘキサノンと亜硝酸tert-ブチルの反応を酢酸中行うことにより、シクロヘキサノンオキシムが生成することを見出した。平成18年度の研究においては、得られたオキシムのラクタムへのBeckmann転位が、ヘキサフルオロイソプロパノールのようなフッ素化溶媒を用いることにより、効率よく進行することを見出した。これによって、化学工業において長年の夢であった硫安をまったく副生しないシクロヘキサンからε-カプロラクタムへの効率的なワンポット合成が達成された。 2.N-ヒドロキシイミド誘導体を用いるアルカンの酸化反応の新展開 我々は、最近トリヒドロキシイソシアヌル酸(THICA)がp-キシレンの酸化によるテレフタル酸の合成反応において、NHPIよりも高い触媒活性を示すことを明らかにした。平成18年度は、THICAを用いたトリメチルベンゼン類の酸素酸化反応の検討を行った。その結果、少量のCo(OAc)_2およびMn(OAc)_2を添加し、トリメチルベンゼン類を空気下(20atm)酸化させることにより、相当するベンゼントリカルボン酸が良好な収率で得られることを見出した。また、1,2,4-トリメチルベンゼンとの反応においては、本触媒系に少量のZrO(OAc)_2を添加することにより反応性が著しく向上することもわかった。本反応は、ポリマー原料として重要なベンゼントリカルボン酸をアルキルベンゼンから一段で合成できるという画期的な合成手法である。
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