酸化反応を含むプロセスは全化学プロセスの30%以上を占めると言われ、酸化に係わるコア技術なくして現代化学産業の持続的発展はあり得ない。酸化反応の研究の歴史は古く、これまで高水準の反応性や選択性を示す酸化剤が数多く開発されてきた。クロム酸や過マンガン酸カリウム等の金属酸化物を酸化剤とする反応は、酸化剤自身の毒性や反応後に生成する重金属化合物の処理の問題もあり近年その使用が見直されつつあるが、主に実験室レベルでは未だに行われている。 空気あるいは酸素は原子有効性の観点から理想的な酸化剤の一つである。しかしながら現状の空気酸化では、生成物の選択性を向上させるために変換率を低く押さえなければならないことも多い。一方、過酸化水素は酸素と並んで原子有効性が高く、反応後に水以外の共生成物を生じないため、もし有機溶媒を用いることなく使用できれば環境を損なうことのない理想的な酸化剤といえる。過酸化水素はクリーンな酸化剤であるが、それ自身の酸化力は弱く、石油化学由来の様々な化合物を酸化するためには触媒による活性化が必要である。過酸化水素によるアリルアルコール類の酸化では、オレフィン部位のエポキシ化が容易に進行するため、不飽和カルボニル化合物を得ることは困難とされていた。我々は白金(黒)を触媒とすると、過酸化水素水を用いるアリルアルコール類のアルコール部位の選択酸化が可能であることを見いだした。100gのシンナミルアルコール(桂皮アルコール)からシンナムアルデヒドが91.6g、93%の収率で得られる。触媒は濾過によって回収が容易であり、7回以上の再使用でも収率の低下は見られない。アリルアルコール類だけではなく、飽和の1級および2級アルコールからそれぞれアルデヒドおよびケトンを高収率で得ることができる。
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