主鎖の電子構造を精密に制御した新しいポリマー系を対象に巨大な三次非線形光学応答および超高速光スイッチング現象の実現をめざして研究を行っている。前年度までにポリ3ヘキシルチオフェンにおいて、側鎖構造の立体規則性の向上により三次光学非線形性が増大することを明らかにした。今年度は、主鎖構造の立体規則性をさらに増大させることを検討した。主鎖構造の立体規則性を低減させる一つの要因である側鎖による立体障害は、主鎖に近い部位の水素原子を取り除くことで劇的に低減できる。実際には、側鎖に三重結合をもつアルキニル鎖を導入すればよい。本研究では、このアルキニルチオフェンの側鎖を規則的に結合させたhead-to-head型ポリアルキニルチオフェンの非線形光学応答の評価を行った。このポリマーは、これまでのポリチオフェンに比べ、非常に鋭い励起子吸収帯を示す。これは、試料の共役長が十分に伸び、不均一幅が狭くなった結果である。第三高調波発生法による非線形感受率スペクトルの測定を行ったところ、零フォノン線に対し鋭い三光子共鳴ピークが得られた。非線形感受率のピーク値はhead-to-tail型ポリアルキルチオフェンの値よりも大きいことを明らかにした。このように、立体障害低減による共役長の延長によって、非線形感受率の増大を実現した。 赤外領域で非線形光学動作する共役系高分子を開発する目的で、化学ドープ状態のポリチオフェンについて第三高調波発生法による非線形光学応答の研究を行った。非線形感受率スペクトル測定の結果、赤外領域に幅広い共鳴構造が観測された。離散準位モデルを用いたスペクトル解析により、この共鳴はポーラロン準位および励起子準位に多重共鳴した非線形光学過程に起因することを明らかにした。
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