研究概要 |
DNAは生命の遺伝情報の担い手として良く知られるが,その得意な特徴である塩基間の相補性(アデニンとチミン,グアニンとシトシン)と塩基配列の設計性から,ナノエレクトロニクス材料としての可能性を視野に入れた物性研究にも関心が持たれている。 本研究では,天然のサケのDNAの真の物性の解明を試み,非接触の磁気的な研究から,天然のDNAが4eV程度の大きなエネルギーギャップを持つ半導体/絶縁体である事を示して来た。この点から,DNAに導電性を持たせうる電荷担体の導入を試みて来た。2価の金属イオンをDNAに導入し,電荷移動を誘起して電荷担体を作り出す方法と,ヨウ素を導入してDNA骨格から電子を引き抜く事,FETによる電界による電荷担体注入などが考えられるが,今年度は,2価金属イオンのFeCl2を入れた系について詳しく調べた。 FeをDNAに導入すると鉄イオンが塩基対の水素結合と入れ替わって入り,その価数は当初の2価から3価に変化する。これは,色の変化やメスバウア効果,磁化率,ESRのg-値など,多くの実験結果から支持されている。特に,磁化率とESRスペクトルの解析からは,3価の鉄イオンの電子状態が単一の状態ではない事が示唆される。高スピン状態でスピンが5/2,低スピン状態では1/2であるが,結果はその両方が約1対3の割合で混在していると理解される。 この結果を理解し得るモデルは,塩基対に導入されたπ電子系が8枚周期の電荷密度波を起こし,それが鉄の結晶場を変調するために高スピンと低スピンが混在する。この点を確かめるために,鉄イオンを部分的にCaイオンに置換して電荷密度派を意図的に壊してみた。その結果,予想通り低スピン状態が減少し,最終的には殆ど高スピン状態に変わる事が確かめられた。その鉄イオン濃度の依存性から,鉄イオンの両隣にCaイオンが来ると高スピンになる事が確認できた。 これらの結果は,DNAの物性,およびその応用を考える上で重要な示唆を与えていると考えられる。
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