研究概要 |
量子ドットの量子準位を用いた単一光子発生に関する研究は,量子暗号通信への実用的な光源の実現を目指して近年研究が活発化している。当該研究では,これまで研究を進めてきたIII-V-N系を用いたひずみ補償による量子ドット発光波長の長波長化の研究を進めると共に,量子ドットにおける発光起源の同定とこれに基づく単一光子生成,さらに量子もつれ合い光子対の生成,ならびにこれらを微小光共振器と結合させて,高い光子取り出し効率を持つ光ファイバー通信波長帯高次機能光子源の実現を目指している。 平成18年度には,ラザフオード後方散乱法によりInAsドットとGaAsN埋め込み層の双方におけるひずみの状況を直接観察した。その結果,埋め込むGaAsNのN組成の増加に伴い,ドット内部の圧縮ひずみが開放されてひずみ補償が実現されていることを確認した。さらに,InAsドットの表面を意図的に窒化し,Valence-force-field model計算を併用してその効果を検討した。その結果,InAs-GaAs界面に窒素原子が存在すると,界面拡散が抑えられることがわかった。このような検討結果に基づいて,InAs量子ドット界面ひずみの低減とひずみ補償効果を両立させる方法として,InGaAs/GaAsNひずみ超格子によるInAs量子ドットの埋め込みを提案し,その有効性が確認した。 単一量子ドットを用いて量子もつれ合い状態の光子対を発生させることは,量子テレポーテーションを用いた新しい通信技術や,量子情報通信を実用化する上で重要な量子リピーターを実現する上で欠かせない技術である。単一量子ドットから発生した励起子分子,励起子発光で生成した光子の偏光相関測定を行い,両者の同時計数確率が通常の無偏光の場合に比べてかなり大きくなっていることを観測した。これは励起子分子と励起子間で強い偏光相関を保持していることを示しており,量子もつれ合い状態を実現するための重要なステップとなる。
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