研究概要 |
本研究では光バッファーを実現するため,フォトニック結晶導波路の低群速度効果の利用を目指している.特に従来問題であった低群速度の狭帯域性と分散による信号波形劣化を改善するため,チャープ構造と分散補償構造を併用することを考え,そのための具体的な構造として,1)逆分散をもう2種類の導波路の方向性結合器と,2)同種類の導波路を並行させた結合導波路を提案し,その実証を目指していた.本年度は,まず1)に関して各導波路を多数作製し,透過帯域の構造依存性とフォトニックバンド理論との対応を詳細に調べた.また遅延の直接観測を行い,真空中の100分の1の低群速度と逆分散を実際に確認した.この構造で最も重要なのは,両者の低群速度帯域を一致させることである.これには許容誤差5nmの高度な構造制御が必要となるが,構造の微調整によってこれが実現され,結果として分散補償された低群速度結合光を取り出すことに成功した。この光に対しても遅延を測定したところ,40〜80分の1の低群速度効果が20nmの帯域で得られた.ただし素子内部で共振が発生し,これが遅延測定の確度を低下させていることが懸念された.そのため,次年度はこの共振を抑制し,所望の遅延をより明確に測定することが目標となる.また2)については,入出力導波路と結合導波路,ならびに両者を結合させる分岐・合流部の透過帯域を整合させることが最大の課題であった.これについても,3次元解析によって構造パラメータ依存性を確認し,最適設計された構造を作製した結果,直線導波路とほとんど変わらない透過率が確認された.また低群速度が期待される周波数では,低群速度に起因する損失の増大が確認され,バンド理論との対応が得られた.
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