研究概要 |
本年度は光バッファーを目指す二種類のフォトニック結晶デバイス(方向性結合器と結合導波路)の作製プロセス改善と広帯域分散補償スローライトの明確な評価を目指した.前者については初年度,既に初期的な観測を行ったが,二つの逆分散導波路の作製誤差を5nm以下に抑えないと出力が得られないため,歩留まりが非常に低かった.今年度は二つの電子ビーム描画用設備を購入し,パターン精度を大幅に向上させた.その結果,上記の要求が安定的に満たされるようになった.これまでは長さ100μmに限られていた素子を600μmまで長尺化することにも成功した.この素子に円孔直径チャープを導入したところ,波長幅30nmでほぼ平坦なスペクトルかつ群屈折率が30〜40のスローライトが観測された.現時点では内部共振に起因する振動が現れているが,チャープを平滑化することで抑制されると考えている.一方,結合導波路についても,電子ビーム描画の改善により品質が大幅に向上した.評価に関しても変調位相シフト法の光学系を完成させ,0.05nmの波長幅で群屈折率が評価できるようになった.その結果,フォトニックバンドの局部的な平坦化に伴う群屈折率の増大,ならびに対称な分散特性=零分散条件が観測された.これにチャープ構造を導入すれば方向性結合器と同様の広帯域分散補償スローライトが得られると考えられ,次年度研究する.こちらのデバイスでは,バンドの連続性ゆえに方向性結合器のような内部共振が現れないと期待している.光バッファーのためにはスローライトを変化させる必要がある.本年度はキャリア効果と熱効果に対する可変性を定量的に見積もった.またフォトニック結晶レーザの発振スペクトルを注意深く観察したところ,発熱に起因した10nmにも及ぶ大きな波長シフトが観測された.スローライトの大きな可変性に応用できる可能性があり,今後,原因を調べる.
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