研究概要 |
今年度は電気化学STMを用いて単一分子・原子鎖の架橋構造を作製した。主に1,4-diisocyanobenzene単一分子の伝導度計測、Au原子鎖の電気化学電位による構造制御をおこなった。 1mM 1,4-diisocyanobenzeneをtetraethyleneglycol dimethyl etherに溶解し、Au電極を用いて伝導度測定を行った。分子が溶存している状態でSTMのtipとAuの単結晶基板を機械的に一度接触させた後引き離すと、接合破断直後に分子がAu電極を架橋することが期待される。1,4-diisocyanobenzeneを含む溶液におけるコンダクタンスヒストグラムに0.002Go(Go:13kオーム)のピークが観測された。溶媒のみではヒストグラムにピークは観測されず、1mM1,4-diisocyanobenzene一分子の伝導度を0.002Goと決定することが出来た。 Au原子鎖はSTMのtipと基板を引き離すことで作製した。Auの原子鎖の電気化学電位を正に保持すると真空中や大気中と同様に伝導度がGoで量子化される伝導特性が観測された。電位を負にするとこれら整数コンダクタンスに加え、新たに分数コンダクタンス値が発現した。この分数コンダクタンス値の起源を明らかにするために溶液のpHを変化させた実験をおこなった。その結果、Auへの吸着水素が分数コンダクタンス値を示す構造を特異的に安定化させることを明らかにした。この構造の安定性は電気化学電位により可逆的に制御することが可能であった。さらに金単原子ワイヤーの安定性の電気化学電位依存性を測定した。その結果、-200mV vs.Ag/AgClで原子ワイヤーが最も不安定となり、その正側でも負側でも原子ワイヤーは安定化されることが分かった。正側ではアニオンが負側では水素がワイヤーに吸着することにより安定化するものと考えられる。そして、原子ワイヤーの安定性は電気化学電位により可逆的かつ連続的に制御可能であった。
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