研究概要 |
(1)本研究の目的のひとつは,金属に接合した分子の電子状態,特にフェルミ準位近傍に誘起される電子状態を準安定原子電子分光(MAES)や紫外光電子分光(UPS)によって明らかにすることである.本年度は,C_6H_5S-Pt(111)系を取り上げ,分子-金属界面において金属的な電子構造をもつ界面準位が形成されること,金属との接合によってS3p-Bzπ間の共役が弱まることなどが見出された.また森川(阪大産研)による理論計算との比較から,電気伝導特性と界面電子状態の関係を考察することができた.この成果は論文にまとめ,投稿中である.またフェロセン-Pt(111)のMAES/UPS測定を行い,Fe 3d由来の状態がフェルミ準位直下に大きな状態密度をもつことを明らかにした.さらにBCPと呼ばれる有機分子を取り上げ,Au上では金属的な界面準位が形成されること,K/Au上では膜厚方向に広がった誘起準位が形成されることを見出した.またホール注入障壁の膜厚依存性を決定し,現在,解析を進めている. (2)準安定原子電子放射顕微鏡の整備を行い,表面反応や機能性の時空間解析が可能になった.本年度,顕微鏡装置およびNi表面の酸化反応について公表した.また,初速度の揃った準安定原子源の開発を進めている.この原子源ではビーム集束により顕微鏡観測の時間短縮ばかりでなく,準安定原子のスピンを選別することによって表面最外層のスピン解析が可能となる.現在,ビーム強度や初速度分布などについて性能評価を行っている. (3)金属に結合した分子において,外部刺激に可逆的に応答する系の探索も本研究の大きな課題である.現在,メタロセン系のスピンに着目した実験を進めている.
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