研究概要 |
本年度は、ブチルメチルイミダゾール系の4種類のイオン液体(bmimCl,bmimI,bmimFeCl_4,nbmimFeCl_4)の熱容量と中性子散乱を行った。ここで、bmimは1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、nbmimはそのブチル基の末端のCH_3をCNで置換したイオンである。熱容量測定には研究室既設の断熱型熱量計を中性子散乱には東京大学物性研究所のAGNES分光器(日本原子力開発機構改造3号炉に設置)を用いた。 熱容量測定の結果、全ての物質にガラス転移を発見した。そして、熱容量、構造エントロピー、CRR(Cooperatively Rearranging Region)サイズなどの熱力学的観点から、イオン液体のガラス転移は分子液体のガラス転移と非常に類似しており、イオン液体は分子液体と同様にフラジル液体であることを示した。また、ガラス転移温度が陰イオンサイズの増大とともに低下すること、陽イオンの極性が大きくなるほど上昇する傾向を見いだした。 中性子非弾性散乱と低温熱容量測定から、ガラスの普遍的性質と言われているボゾンピークがイオン液体ガラスにも存在することを示した。また、ボゾンピークエネルギーは陰イオンの増大とともに低下することを明らかにした。 中性子準弾性散乱測定から、イオン液体にもガラス転移温度付近から生じるピコ秒オーダーの速い過程(β緩和)が存在すること、またこの起源に関係すると考えられる陽イオンの運動が非常に低い活性化エネルギーをもつことを示した。 以上の結果を総合すると、イオン液体中のbmimイオンは非常にフレキシブルな状態にあり、熱力学的にも高いエントロピーをもつと結論できる。我々は、このエントロピー的安定化がイオン液体の低融点の理由の一つであると考えている。
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