研究概要 |
我々はこれまで主に1-100psの時間領域の中性子散乱分光器を用いてきたが、平成20年度は初めて10ps-100nsの長い時間領域をもつスピンエコー装置NSE(NIST,USA)を用いた実験を行った。スピンエコ-装置では主に干渉性散乱成分を観測するため、大きな非干渉性散乱断面積をもつ水素原子を全て重水素置換したd-C8mimCIを試料に用いた。NSEの実験は、回折実験よりイオン相関のピークが見られる11nm-1とドメイン相関が見られる2.8nm-1の2つの散乱ベクトルqにおいて行った。q=11nm-1の測定からは、2つの緩和成分が観測された。遅い緩和はイオン相関に関する緩和、速い緩和はアルキル鎖などの局所モードの緩和と考えられる。イオン相関の緩和がこのように時間領域で直接観測されたのは初めてである。ドメイン相関に対応するq=11nm-1の測定では緩和はほとんど観測されなかったが、このことはドメインが100ns以上の極めて遅い時間スケールで緩和することを示している。このことも全く新しい知見である。 イオンゲルPMMA/C2mimTFSIについても遅い時間スケールの実験をIRIS(ISIS,UK)を用いて行った。イオン液体モル分率x(IL)が0.1と0.3である。イオン液体またはゲル網目の運動を独立にみるため、それぞれを重水素置換した試料(合計4種類)を用いた。全ての準弾性散乱データを跳躍拡散モデルにより解析した。これまでは熱測定からx(IL)=0.3ではイオン液体とポリマーの運動がカップルしていると言われていたが、中性子散乱で見ると両者は低温ではカップル、高温ではデカップルしていることが明らかになった。この結果は、今後イオンゲルのイオン伝導機構を解明する上で、非常に重要な情報である。
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